2017年2月24日金曜日

シリアにおける北朝鮮の「HT-16PGJ」携帯式対空ミサイル


著:シュタイン・ミッツアー と ヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo


 ほぼ10年にわたる厳しい制裁の下で国際武器市場における北朝鮮の従来型兵器の拡散はたびたび過小に報告されており、過去の多くの武器取引は完全に記録されていません。それにもかかわらず、これらの取引の跡は未だに世界の紛争地域の多くで目立っており、時折新しい映像などが国際的な武器取引への北朝鮮の関与を窺わせています。

 今日の紛争のホットスポットで既に存在している、北朝鮮によって改修された主力戦車, 様々な種類の砲, 対戦車ミサイル (ATGM) 軽機関銃 (LMG)のほか、シリア内戦で使用されている武器の画像を分析すると、バッシャール・アル=アサド大統領の政権と対立する様々な勢力の間で、北朝鮮の携帯型防空ミサイルシステム(MANPADS) の存在が明らかとなりました。

 このミサイルの目撃はアサド政権への初期供与の規模がかなり大きいと暗示させるほど十分一般的になりましたが、常にシリアでも使用されている同様のソ連製9K310(SA-16)「イグラ-1E」として識別されていたという事実は、今までこれらが北朝鮮製であると気づかれなかったことを意味しています。

 2014年8月、同年の夏にイスラーム軍から奪取したKshesh(注:ジラー空軍基地)においてイスラム国の戦闘員の手でこの一つの例が最初に特定されましたが、さらなる追跡調査で、 2013年2月のアレッポにおけるシリア軍第80旅団の基地で自由シリア軍と(もとはアルカーイダ系グループ)カテバ・アル=カウサールによって捕獲された少なくとも18発の発射機とそれに付随するシステムの一群の存在も明らかとなりました

 航空機やヘリコプターがこれらのミサイルで撃墜されたことは明確に知られていませんが、戦場における彼ら(北朝鮮製MANPADS)の継続した存在は最近(注:執筆当時)厳しく包囲されたラタキア県では未だに機能していることを示唆しています。

先端キャップが取り外された北朝鮮の「HT-16PGJ」MANPADS:ジラー空軍基地で2014年8月撮影




2013年2月にアレッポで鹵獲された「HT-16PGJ」

 これらのMANPADSは北朝鮮では一般的に「Hwaseong-Chong(火縄銃)」と呼ばれているようですが、シリアに輸出されたタイプは3番目か4番目に北朝鮮で独自に開発されたものと考えられています。
 
 ソ連の9K32(SA-7)「ストレラ-2」MANPADSからコピーされた(PGLMまたはCSA-3Aという名称を付与されたかもしれない)初期のタイプは1980年代に開発された可能性が高いですが、9K34(SA-14)「ストレラ-3」の独自の派生型と思われるものは早い時期であれば、すでに1992年の時点で目撃されています。

 北におけるMANPADSの開発は、最終的にここ近年でしか認識されていないロシアの9K38(SA-18)「イグラ」に由来と思われるシステムをもたらしました。

 シリアで現在見られるMANPADSは古い9K310「イグラ-1」(SA-16)と最も類似点が共通しているものの、特徴的な先端の三角状のエアロスパイクは9K38(SA-18)「イグラ」や9K338(SA-24)「イグラ-S」で見られるより近代的な針状のエアロスパイクに置き換えられており、性能が向上している可能性が高いと思われます。

 北朝鮮のシステムがソ連/ロシア製との識別を可能にする最も重要な相違点は、MANPADSの電源である熱電池をより前に配置している点です(注:北朝鮮製はオリジナルのSA-16と異なり、熱電池が(キャップを除く)ミサイル・チューブ先端より僅かに前へ突き出るような配置をしています)。

 また、この熱電池はシステムがまだ使用可能かどうかを判断する材料となっています。熱電池の枯渇はMANPADSが役に立たなくなったことを意味し、対空装備を入手を熱望する武装勢力が自ら代用電池を作り、使用を試みたいくつかのケースに至ることがあります。

ラタキアにおける北朝鮮の「HT-16PGJ」MANPADS(2015年11月26日撮影)、右:北朝鮮の閲兵式における同型と思われるMANPADS

 さらなる画像分析によると、シリアで発見された北朝鮮のシステムには「HT-16PGJ(ミサイル単体ではHG-16)」と表記されており、第80旅団で捕獲されたものは2004年1月1日付けの契約日が記載されたシステムの一部であり、これは熱電池の有効保存期間がまだ切れそうにもないことを意味しています。

 2003年にとある(ベラルーシといわれている)未知のサプライヤーが引き渡した約300基の「イグラ」について、西側の情報に基づくレポートは、特にシリアでは同MANPADSが未だに目撃されていないため実際には北朝鮮のシステムをめぐる取引に言及している可能性があります。

 仮にもしそうであるならば配送が2004年の初めの時点で継続していたことから、報告よりもさらに多くのMANPADSが調達された可能性が高いと思われます。実際、ミサイルの箱に対する徹底した調査は合計600基のHT-16PGJで1箱に各2発ずつミサイルが入っていたことから、少なくとも300箱がシリアに引き渡されたことを明らかにしています。

 シリア内戦ではかなりのMANPADSの派生型が見られたにもかかわらず、ソ連の伝統的な「ストレラ-2M」、「ストレラ-3」と「イグラ-1」から中国の「FN-6」に至るまでスーダンを通じてカタールによって供給されたほか、ロシアの「イグラ-S」が紛争開始の数年前に引き渡されましたが、今日、シリアの空を飛び回る多数の勢力(注:シリア空軍やロシア空軍など)に対抗する防空戦力は未だに不足したままとなっています。

 これによっていくらかの武装勢力は極端な射程の、見かけだけの間に合わせでしかない防空戦力で戦うことを強いられ、あらゆるMANPADSは貴重な資産とみなされるようになりました。

 これらのシステムの能力のために、ミサイルが国外へ密輸されて民間航空機が撃墜されることを恐れたことから、西側諸国は内戦初期に穏健なシリアの反政府勢力へMANPADSを供給することに消極的でした。通常、このような航空機はMANPADSの有効高度よりも高い高度で巡航していますが、離陸直後や着陸前に発射されたミサイルは過去に本当の脅威となったことがあります。

 ロシアの「イグラ-S」に類似するものがシリアの戦場で見つけられる最も能力の高いMANPADSシステムであるとは思われませんが、古い「ストレラ-2」や「ストレラ-3」、「イグラ-1」、そしておそらく中国の「FN-6」よりも確実に有効であり、後者(FN-6)はそれを使用した反政府勢力によって信頼できないことが明らかとなっています。

 ロシア空軍はラタキア県を含むシリア全土でアサドの対抗勢力との空爆作戦の最前線にとどまり続けるため、いかなる種類の防空システムもその出所を問わず反政府勢力に快く受け入れられることでしょう。

 将来的にこれらのシステムのより多くが出現するかどうかについては、当然ながらまだ分かりませんが、世界中の国に対する北朝鮮の武器輸出の全容の解明がやっと始まったばかりであるとはいえ、結局はいつか違法な武器取引市場に行き着く可能性がある北朝鮮におけるMANPADSを含む新しい武器の開発は未だに進行中です。

朝鮮人民軍で使用されるMANPADS:左から3人目まで使用しているものが、同側から順に「イグラ-1」、シリアでも使用されている「HT-16PGJ」、「ストレラ-3」








特別協力:'BM-21 Grad'(注:元記事への協力であり、本件編訳とは無関係です)。

 ※ この翻訳元の記事は、2016年3月に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。
 ※ 最終更新日:2021年10月8日    


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