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2021年5月20日木曜日

ガザ紛争:ハマスが保有する北朝鮮の武器


著:ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ(編訳:Tarao Goo)


 国際法上ではパレスチナの一部である東エルサレム近隣のシェイク・ジャラ地区で、イスラエル人入植者を優先してパレスチナ人住民を立ち退かせる決定がなされたことについて、2021年5月6日にエルサレムで抗議活動が勃発しました。

 イスラエル当局はこの抗議活動を厳しく取り締まって多数のパレスチナ人が負傷したことなどから、両陣営は武力衝突の寸前に直面しました。抗議がさらに多くの負傷者を出しながら続く中で、ハマスはイスラエルに対し最後通牒を突きつけ、5月10日までにエルサレムにある宗教的に敏感なアルアクサ・モスクから軍を撤退させることを要求しました。

 イスラエルを最後通牒に応じさせることができなかったため、ハマスは(過去数十年にわたって同様の多くの衝突が起きている)ガザ地区からイスラエルの入植地に向けてロケット弾攻撃を開始しました。

 ロケット弾による攻撃に対応して、イスラエルは同じ日から戦闘機や無人航空機(UAV)から投下される精密誘導弾や地上から発射される砲弾を使用して、ガザ地区内に存在する多数のハマス関連の標的を攻撃しました。

 これらの攻撃によって、数人のハマス高官のみならず多くの民間人を含む200人近くのパレスチナ人が死亡したと考えられています(その中には少なくとも58人の子供も含まれていると報じられています)。そして、イスラエル側では今までに10名の死傷者が報告されており、その大多数がハマスによるロケット弾攻撃によって死亡しました。[1]

 ハマスが使用する武器の選択は – その軍事部門であるエゼディン・アル・カッサム旅団を通じて用いられており – これまでのところは主に独自生産の無誘導ロケット弾の発射という方法が多用されているようです。今回では、それらを迎撃する任務を課されたイスラエルのアイアンドーム防空システムを飽和させて圧倒するために大規模かつ同時多発的な斉射が実施されています。

 暴力行為がさらにエスカレートするにつれ、ハマスは対戦車ミサイル(ATGM)や徘徊兵器を含むいくつかの(ロケット弾以外の)兵器システムも初公開しました。これらは双方ともにその使用が激化するにつれ、世間に広く知られるようになりました。


 特に、ハマスによるATGMの使用は過小評価できない脅威となっています。ATGMはイスラエル国防軍(IDF)で運用されているほとんどの車両の装甲を高い精度で貫通することができ、1発でも命中を成功させた場合は数日分のロケット弾攻撃よりも多くの死傷者をもたらす可能性があります。

 今回の戦闘でハマスは少なくとも2回ATGMを使用してガザの境界線沿いに展開していたIDFの車両を攻撃し、イスラエル兵1名の死亡と3名の負傷をもたらしました。[2]

 そのお返しとして、IDFはミサイルが発射される前にハマスのATGM部隊を抹殺することを決め、これまでに7つのATGM部隊が標的にされたと伝えられています。[3]


 ハマスは無誘導ロケット弾や携帯対戦車擲弾発射器(RPG)、さらには(一部、海外から密輸されたコンポーネントを使用してはいるものの)無人機の国産化にも成功していますが、ATGMの入手については膨大な武器密輸ネットワークとイランからの軍事援助に依存しています。

 近年にハマスが保有しているATGMのストックは、9M14「マリュートカ」、9M111「ファゴット」、9M113「コンクールス」、手強い9M133「コルネット」などのシステムで構成されており、これらはハマスが内戦で疲弊したリビアやイランからなんとか密輸して入手したものですが、少数の北朝鮮の「Bulsae-2(火の鳥)」も含まれてます(注:Bulsaeは日本語で直訳すると「火の鳥」ですが、最近の北朝鮮の武器カタログでは英語でPhoenixと表示されていたケースがあったため、単に「不死鳥」や「フェニックス」と表記することも可能です。ただし、この記事では従来の「火の鳥」を使用します)。

 これらのATGMは、同様に発見されにくい北朝鮮のF-7ロケット推進擲弾と一緒に使用されています(注:F-7も少数がガザ地区にも辿り着いたようです)。


 カッサム旅団は、スーダンからガザ地区までに及ぶ裏ルートのチャンネルや密輸業者の精巧なネットワークを通じて、イランから北朝鮮の武器を入手していたと考えられています。
これはおそらく、ほかの輸送手段と同様の方法で密輸されたものと推測されます:武器がスーダンに運ばれた後、陸路でエジプトに移送され、そこから地下トンネルを通ってガザ地区へ密輸されたのでしょう。

 この説は2009年12月に発覚した事件によってさらに裏付けされています。このケースでは、北朝鮮の武器を積載したイリューシンIL-76貨物機がバンコクに着陸した直後にタイ当局によって武器が発見・押収されました。「石油掘削装置」と表示された貨物には、35トン分のロケット弾、携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)、爆薬、ロケット推進擲弾などの武器が含まれていたのです。[4]

 また、その数ヶ月前(2009年7月)にもUAEで同様の(武器を積載した)貨物が押収されています。[4]

これらを踏まえると、ほかにもこのような大量の「貨物」が誰にも気づかれずにハマスと(レバノンの)ヒズボラに転送された可能性があると信じられています。
 
 

 どうやら、この密輸構想における北朝鮮の役割は武器の製造に限定されているようですが、北朝鮮は輸出した武器の最終目的地を完全に把握していると推測することができます。

 しかし、このような武器取引について北朝鮮の体制が持つ唯一の関心はそれらがもたらす外貨であり、(制裁強化による)自暴自棄の度合いの高まりがハマスたちをこれまで以上に存在しそうもない顧客にせざるを得ない状況となっているため、(売却した武器を手にする相手が)誰になっても問題にはしないでしょう。

 もちろん、ハマスは平壌と重要な交友関係を持っていないことを踏まえると、このような難解な武器供給者の選択は驚くべきことかもしれません(ただし、後者はこの地域でのイスラエルの行動を一貫して非難していますが)。

 実際、イランは北朝鮮に装備の供給を請け負わせることで、自らのパレスチナへの関与を隠蔽しようとした可能性があります。そうすることで、問題の武器がハマスの部隊で運用されていることが露見しても、イランはもっともらしい否認をし続けることができるからです。

 北朝鮮自身も外国で使用されている自国の武器の起源が明らかになることを望んでいないため、頻繁に同等の外国製装備の名前(英語)を用いながら武器を販売しています。リビアでは、発射機に「PLA-017」、ミサイルに「PLA-197」と書かれた「火の鳥-2」が目撃されていますが、おそらくこれは中国由来の武器であると誤認させるための名称でしょう。

より多くの「火の鳥-2」のミサイルと発射機が(政治的対立の後にハマスから分離独立した)アル・ナセル・サラディーン旅団の保有兵器として登場しました。 

 カッサム旅団で使用されているもう1種類の北朝鮮製の弾薬はF-7ロケット推進擲弾であり、これはRPG-7用のソ連製PG-7を北朝鮮がコピーしたものです(注:F-7はハマスの現地生産型発射機にも適合している可能性があります)。F-7は弾頭の周りに赤いラインが引かれているため、ほかのPG-7のコピー弾と見分けることが容易です。

 この擲弾はシリアやエジプトを含む世界中でその姿が見られています。2017年に、エジプトはスエズ運河の付近を航行している北朝鮮の貨物船が違法な貨物を積載している可能性があるという米国の警告を受け、後にその船から30.000発のF-7弾を押収しました。困ったことに、このケースでは不正な貨物の目的地は押収した国:エジプトであることが判明したのです。[5]


 オリジナルの設計では、9M111有線誘導式ミサイルは半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)を用いて標的に向かって飛行し、約460mmの均質圧延鋼装甲(RHA)を貫通することができます。また、アップグレードされたミサイルも一般的には同じ発射機から発射することが可能です。

北朝鮮は1980年代後半にソ連から9K111(AT-4)を入手したことが知られています。

 北朝鮮製のシステムはいくつかの重要な点でオリジナルと異なっています。特に注目するべき点として、オリジナルのミサイルが有線誘導式であったためにワイヤーが途中で切断されたり水上を飛行する際にショートしてしまうリスクがあったのに対し、「火の鳥-2」はレーザー誘導方式を採用しています。この誘導方式では、ミサイルの飛行経路を修正は単にオペレーターが照準器のレチクルと標的を重なるように維持すればよいだけなので、高い命中精度をもたらす可能性を秘めています。

 誘導方式以外では、一般的な「火の鳥-2」は射程距離の延長や弾頭の貫通力の向上、異なった運用モードを運用者に提供しませんが、北朝鮮ではさらにアップグレードされたミサイルが存在することが知られています(注:これは2016年に北朝鮮が試験したレーザー誘導式新型対戦車ミサイルを指すと思われます。これと同一のミサイルシステムが「Phoenix-4M」として武器輸出カタログに掲載されています。)また、北朝鮮は独自の形状をした専用の熱電池も製造しているようですが、これはシステムの品質には影響しないと思われます。

1人の兵士が発射機全体を携行して仲間の部隊員がそれぞれ2本の発射管を持ち運ぶことを可能にさせる、このATGMシステムのコンパクトで持ち運びに便利なデザインがハマスに特に重宝されているようです(下の画像を参照)。


 これまで、北朝鮮は(体制の支配力の維持を手助けする)武器の販売を通じた外貨の供給を外交関係に依存してきました。その結果として、エジプト、シリア、イラン、ミャンマーなどの国への弾道ミサイルや核技術の輸出さえも頻繁に報じられており、国際的な監視者から大きな注目を集めています。

 しかし、(制裁などで)顧客層が狭くなるにつれて非国家主体との取引に対する不安も薄れてきており、もし北朝鮮が(おそらくイランを通じて)ハマスとの新たな取引関係を確保できるのであれば、ほぼ間違いなくそうするでしょう。

 ハマスにとって、北朝鮮製のATGMやRPG弾頭がもたらす恩恵はその在庫が続く限り続くでしょう。これらの武器が戦闘に関与する数が比較的少なく、ガザ地区での紛争状態が長期間継続する可能性が低いためです。
   

 武器の密輸ルートは絶えず進化しており、今やイランはいくつかの分野のATGMを生産しており、イエメンやイラクの代理勢力に輸出する準備をしています。これを踏まえると、次にガザ地区に到着するATGMやRPGのパッケージがイラン製のもので構成されている可能性が非常に高いと思われます。これには(9M133「コルネット」のコピーである)デフラヴィエ ATGMだけでなく、代理勢力の部隊用に特別に設計された(簡略化された)RPG-29のイラン製コピーも含まれます。

 イスラエルが運用している最新型の機甲戦力に脅威を与える可能性すらある高性能なイラン製システムの前では、ハマスが保有する北朝鮮製兵器は単なる歴史的な遺物のように見えるかもしれません。

 それにもかかわらず、彼らの存在は違法な武器がどのような方法で地球上を駆け巡っているのかを示す致命的な注意喚起として機能しますが、ときには予想外の場所に出現することもあります(注:そのためにはあらゆる紛争地域に登場する軍事装備を注視していく必要が不可欠です)。





※  この翻訳元の記事は、2021年5月18日に投稿されたものです。当記事は意訳など 
 により、僅かに本来のものと意味や言い回しが異なっている箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読ください。


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中東における北朝鮮の対戦車ミサイル





著 ステイン・ミッツアーとヨースト・オリーマンズ (編訳:Tarao Goo)

弾道ミサイル計画でよく知られている北朝鮮は、その体制の維持を可能とする外貨の獲得を外交関係に依存してきました。特にエジプト、シリア、イラン、そしてミャンマーといった国への弾道ミサイルや核技術の輸出が頻繁に報じられており、国際的な監視者から大きな注目を集めています。
しかし、(通常兵器と戦略兵器の双方を世界中の国家へ引渡すこと自体は別として)北朝鮮の対戦車ミサイルがアメリカによってテロ組織と指定された者たちの手によって登場していおり、それは武器密売市場における北朝鮮による関与の拡大を示しています。


ハマスの軍事部門である「エゼディン・アル・カッサム旅団」の戦闘員を映した画像は、彼が操作している9K111「ファゴット(西側呼称:AT-4)」の派生型が北朝鮮が運用しているBulsae-2(注:北朝鮮側の呼称「火の鳥-2」)であることを示しています。

カッサム旅団はスーダンからガザ地区までに及ぶ密輸業者と裏ルートの精巧なネットワークを介して、イラン経由で北朝鮮のミサイルを受け取っている可能性があります。
これは、おそらくほかの輸送で行なわれる方法と同じようなやり方で行わたものと考えられています。
例として、ポートスーダンでの武器引渡し後にエジプト経由でガザ地区へ陸路で運ばれる方法があります(これは紅海のスーダン沿岸でイスラエル海軍に拿捕された貨物船「Klos C」の件でも行われるはずでした)。

また、政治的対立によりハマスから分離独立したアル・ナセル・サラディーン旅団も多くの発射機とミサイルを保有していることが確認されました(下の写真)。

ほかの武器が対戦車ミサイルと一緒に引き渡されたかは不明ですが、北朝鮮はロケット推進擲弾(注:RPG-7)やMANPADS(携帯式地対空ミサイルシステム)の主要な生産者としてよく知られており、その幾らかは輸出されたとみられています。




この説のさらなる裏づけとして、2009年12月にバンコクに着陸したIL-76輸送機から北朝鮮製の武器の積み荷がタイ当局によって発見・押収された件が挙げられます。
石油掘削装置として表示された貨物には、35トン分に相当するロケット弾、携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)、爆薬、ロケット推進擲弾やその他の兵器類が含まれていました。

その数か月前(2009年7月)にも同様の積み荷がUAEで押収されたケースがありました。
摘発を受けて押収されたパターンもありますが、大量の積荷がハマスとヒズボラの双方へ発覚されれずに密輸されたものと信じられています。
北朝鮮が武器密輸業の筆頭にいることにより、武器の輸送方法と密輸ルートが絶え間なく進化しているのです。


北朝鮮の役割はあくまでもこのような武器システムの生産者であることであることに限られています。 
ただし、イランと北朝鮮のお互いが「聞くな、答えるな」という方針を維持していたとしても、北朝鮮が輸出したBulsae-2の宛先を熟知していることは容易に推測できます。
ただし、この取引での北朝鮮の唯一の関心は外貨なので使用する相手が問題になることはないようです。



















9M111有線式ミサイルは目標への指向方法として半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)を採用しており、目標や種類によっては460mmの装甲を貫徹することができます。
9K111-1コンクールス・システムを用いる9M113ミサイルを含めた能力向上型は、9M111と9M113の双方に互換性を付与されたことによって同じ発射機(最初期の型を除く)を使用することが可能です。
北朝鮮は9K111を1988年にソ連から最初に受領し、2010年ころまでにロシアとの間で約4500システムの取引が継続されたといわれています。
ミサイルの互換性という性質により、9K111ファゴットだけでなく9K111-1コンクールスも引き渡された可能性も考えられるますが、それを明言することはできません。
9K111-1コンクールスについて北朝鮮側の名称は知られていませんが、既に知られているBulsae-3(火の鳥-3)はおそらくそれとは関係のないシステムと思われます。


北朝鮮製9K111「火の鳥-2」発射機は幾つかの点においてオリジナルと差異があり、最も顕著な点として、光学機器が大幅に変更されたことが挙げられます。
このシステムの発射機である、9P135の9Sh119照準装置(照準器の下半分)は「火の鳥-2」の照準器に似ていますが、ミサイルの自動追尾用スコープ(照準器の上半分)が、2つの独立した小さい光学機器と交換されています。

この改良が、オリジナルのアップグレード又はダウングレードになるのかは不明です。
近年、北朝鮮はシステムの品質に影響を及ぼさない独自のミサイルを製造しているようなので、今後も注視していく必要があります。
                                                 

 ※ この翻訳元の記事は、2014年7月に投稿されたものです。
   当記事は意訳などにより、本来のものと意味や言い回しが異なる箇所があります。
   正確な表現などについては、元記事をご一読願います。